Seminar for Bass Guitar Player


デッドポイントとハーモニクス

以下の文章はNifty-serveのFROCKPの4番会議室にあるベース部屋に、わたし(鄭 基明と名乗っています)が書き込んだもの(#03064)…LIB 11 [倉庫3] 永久保存 旧ログファイルの89番から入手可能です…を元に編集したものです。

デッドポイントはネックの共振

デッドポイントについてですが、ネックの共振ポイントで弦の振動エネルギーが吸収されると考えれば良いです(閉じられた系のエネルギーの総和は一定であるという熱力学の法則を思い起こしてください)。

弦の振動とは…

一般に弦の振動を観察して見ると次のように考えることができます。
ピッキングによって与えられたエネルギーの大部分は弦の上を走り自由振動の弦の両端で反射します(一部はそれぞれナットまたは押さえたフレットを通してネックへ、ブリッジを通してボディへと伝わります。それが最終的に外部に「音」として放射されたり内部で損失されて熱エネルギーとして消費されます)。
そして両端で反射した波がそれぞれ出会うことによって特定の周波数は打ち消され定常的な弦の振動へと成長していきます(ここで音程が決まります)。
もちろん弦自体の熱損失がありますのでそこでも弦の振動は減衰していきますね。

なお、ピックアップが弦の振動を拾うためにエネルギーが電磁エネルギーに変換されますが、その量はわずかと考えてよいです(高出力のピックアップなら多少影響があるかな?)。
ピエゾなどの圧電タイプのピックアップも弾性変形によりエネルギーを電気に変換させますがそれも極わずかであると考えればよいです。

ネックへの放射

さて、ネックが共振を起こすとその周波数はかなり急激に弦の振動からエネルギーをネックに放射することになります。
ネックのヘッド付近をたたいて見てください。そのときの音程がネックの共振周波数です。
フェンダータイプのベースだと1弦の5フレット付近の基音に共振周波数を持っています(同じ音程でも2弦に変えるとかなりハイポジションになることでネックの振動の影響が減るのだと考えられます。ネックの振動を考えてみると、ボディとのジョイント部分を「固定端」、ヘッドを「解放端」とする「片持ち弦」とモデル化できます。「解放端」は振動の「腹」と言えますから「腹」に近い方がエネルギーが伝わりやすいと言えます)。
そのため、デッドポイントでの弦の振動は基音のみが急激に減衰して倍音のみが残ることになります(デッドポイントのオクターブ低い音を3弦で演奏した場合は2倍音が減衰することが確認できます)。
ヘッドに重りをつけることにより、ネックの共振周波数が低くなりますのでデッドポイントをずらすことができます。
固い壁などにネックのヘッドを押し付けても共振周波数を下げることが可能です(何やってんだか…->自分)。

ハーモニクス

さて、ハーモニクスですが、通常の弦の自由振動に対して特定のポイントの弦の動きを規制することにより分割振動を起こさせると考えればよいでしょう。図解なしの文字だけでの説明ですので読むほうも大変でしょうがおつきあいください。
何回も述べているとおり、弦の振動は両端が固定されていてその間が自由に動ける状態にて起こります。
ここで弦長の1/2(ちなみに12フレットです)を軽く触れてその部分を自由に動かなくするとブリッジ側とナット側に波長が1/2(周波数が2倍)の二つの波に別れて振動が起こります。
この自由に動けなくした部分を振動の「節」と呼ぶことにします。
弦長の1/3を同じように軽く触れてやると節が二つできて3つに分かれて(3倍の周波数で)振動します。
この2倍、3倍の周波数の振動を倍音(それぞれ2倍音、3倍音)と呼びます。
弦長の1/nを規制することでn倍音が(n-1)個の節を持ってn個のることになります。なお、振動の節の位置では弦は動いていませんのでその位置にピックアップがあるとその倍音は拾えません。

倍音列

倍音列と振動の節(<>でくくっていないところを触れればハーモニクスが出せます。小数点以下は雰囲気で理解してください)の位置ですが、ナチュラルハーモニクス(解放弦に乗るハーモニクス)の場合は以下の通りです。(Fはフレットの略)

2倍音
1oct.上
12F
3倍音
1oct.と完全5度上
7F,19F
4倍音
2oct.上
5F,<12F>,24F
5倍音
2oct.と長3度上
4F,9F,16F,仮想の28F
6倍音
2oct.と完全5度上
3.2F(?),<7F>,<12F>,<19F>,仮想の31F
7倍音
2oct.と短7度上
2.7-2.8F(?),6F,10F,14.5F(?),22F,仮想の34F
8倍音
3oct.上
2.3F(?),<5F>,8F,<12F>,17F,<24F>,仮想の36F
9倍音
3oct.と長2度上
2F,…仮想の38Fまでに全部で8つの節がある

以下略す。

倍音のキャンセル

前にもちらりと書きましたが、ピックアップの位置によりそこが振動の節となる倍音は拾うことが出来ずにその倍音はキャンセルされます。
また、ピッキングの位置が振動の節となる倍音もまたキャンセルされます。
理解しやすくするために3倍音を出そうと7Fに軽く触れつつ19Fの真上でピッキングしてみてください。ハーモニクスが出にくいでしょ?
解放弦で12Fの真上でピッキングするとシンセサイザーの対称矩型波(偶数倍音が無くなる)のようにうつろな音色になることも確認できます。


まとめると…

「弦長のx/n(xは1から(n-1)まで)の位置でピッキングするとn倍音系列はキャンセルされる」
「弦長のx/n(xは1から(n-1)まで)の位置にピックアップがあるとn倍音系列はキャンセルされる」

…ということになります。つまりフランジャーで出来る櫛形フィルターと同じですね。

なお、スラップなどで、もしスラップした親指が弦に触れている時間が、弦に与えられた衝撃がブリッジで反射してその位置に返ってくる時間より長い場合は、n倍音はキャンセルされずに逆に強調されます(つまりハーモニクスになってしまいます)。振り抜くような場合は弦に振れている時間は一瞬なのでそんなことにはならないと思いますが…。

補足事項

「デッドポイント」などの楽器の欠点は、逆に楽器の「個性」といえます。曲の中で敢えてそのポイントを使用するか、避けて別のポジションで演奏するか判断するのは演奏者の密かな楽しみでもあります。
また、「ハーモニクス」の項ではピッキングの位置による倍音の含まれ方についてが書かれています。
このピッキング位置やピックアップのバランス(JBやPJタイプの場合)を曲にあわせて選択するのも演奏者の楽しみであるわけです。

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