Seminar for Bass Guitar Player
以下の文章はNifty-serveのFROCKPの4番会議室にあるベース部屋に、書き込んだもの(#03189)…LIB 11 [倉庫3] 永久保存 旧ログファイルの89番から入手可能です…を元に編集したものです。
今回はベースギターで一般的な電磁ピックアップの特性を活用した音色のコントロールについて考えてみましょう。
電磁ピックアップの構造を見てみると磁石にコイルが巻かれていますね。そして磁性体で出来ている弦がその近くで動くことで磁力線が変化しコイルに起電力が生じます(フレミングの法則という名前くらいは覚えていますよね)。
さて、弦が動かないと磁力線は変化しませんから起電力は生じません。乱暴に考えると弦の速度を電気信号に変換すると考えればよいことになります。
そして、その速度の方向がピックアップに近付くか遠ざかるかでその出力がプラスになるかマイナスになるかが変化すると考えればよいです。
なお、変化する磁力線は、ほとんどの場合弦の近くのポールピースを通りますから、ピックアップの中心は弦に近いポールピースと考えて良いと思われます。
以上のことから電磁ピックアップを持ったエレクトリックベースではその弦の振動を効率良くピックアップに変換させるにはピックアップに対して垂直方向(つまりボディのトップの面に対して垂直です)に振動させると良いことがわかります。
ではピックアップに対して平行(ボディのトップの面に対して平行)に振動している場合はどうなるか考えてみると…極端な例として弦の振動の中心がピックアップに一番近いという場合を考えてみましょう。
弦の動きを単純なサイン波として1波形分(最初が0から立ち上がりプラス方向に行って戻って0になって半波形、さらにマイナス方向に行って戻って0になって1波形となります)について乱暴に見てみると、最初の1/4波形で弦が遠ざかって一番遠いところで止まりますから「0からマイナスに振れて0に戻る」ことになり、次の1/4で近付きますから「0からプラスに振れて0に戻る」という出力が出てきます。残りの1/2では今までを繰り返すことになります。
つまり、弦の1波形に対してピックアップの拾った信号は2波形分(しかも鋸歯状波に近い波形になるのでかなり倍音が豊富)になるということがわかります。
このことは、弦の振動している周波数の偶数倍音を強く拾う…言い替えれば基音を拾わないで1oct.高い音として拾うということを表わしています。
実際には弦の振動は時間をおいて回転運動を含み始める(つまり垂直成分も平行成分も持つようになる)と予想されますし、そもそも、最初からある程度回転運動をも含んで振動していると考えられますから、完全に弦の振動の中心が一番ピックアップに近いという状態に出来るとは思われません。
ですから演奏していていきなりオクターブ高い音になってしまうということはありえませんが、極端に考えるとそうなる(と推測できる)よ…っていうことです。
実は、この現象はエレクトリックピアノで起こります。エレクトリックピアノの代名詞であったFender Rhoadesではトーンジェネレータという振動する金属棒の先に電磁ピックアップが少しずらして取り付けてある(ずれているので基音は拾えるが、かなり偶数倍音が強調されているには違いありません)のですが、これをぴったしトーンジェネレータ延長方向の先にセットすると基音がものすごく減って「コキーン」というような1oct.高い音(元の音程の偶数倍音ばっかり)になってしまいます(音域によって聞こえ方は違いますけどね)。
えっと、考えるだけではあれですので、実際にベースを手にして確認してみましょう(もちろんアンプにつなぐ必要があります)。奏法はフィンガーピッキングで確認します。
4弦(最低音の弦ですLow-Bが張ってあるなら5弦や6弦になるのかな?)の解放を弾いてみるのがわかりやすいです。
ピックアップに対して平行方向へピッキングするのと垂直方向へピッキングするのを交互に試してアンプからの音を聞き比べてみてください。
平行方向では「パスッ」というような重低音の抜けた音になり、垂直方向では「ズンッ」というアタックを感じる(アンプが歪んでしまうかも…)ことができると思います。
波形で確認する 以下にYAMAHA BB-N5の4弦解放をサンプリングした波形を示します。ベースのEQはフラットで、PUはフロントのみ、ピッキングの位置はフロントとリアのピックアップの中間です。
YAMAHAのMU80のA/D inputで入力ゲインを調整した後で、Power Mac6100の音声入力に入れてSound Managerの機能でレコーディングしました。
波形の画面はヤマハ株式会社がCBX-D3やCBX-D5用のユーティリティとしてフリーで配布(Nifty serveのFMIDIVAのライブラリにて入手が可能です)している「TINY WAVE EDITOR」を使用し、スクリーンショットを利用しました。
あなたのマシンにApple社の「QuickTime」がインストールされていてブラウザの「Plug-ins」にQuickTime Pluginがインストールしてあれば、実際にこのページ上でそのサウンドが確認できます(オーディオファイルの容量を節約するためにQuickTimeのIMA 4:1の圧縮アルゴリズムを利用したためです)。
最初がピックアップに対して垂直方向にピッキングしたもので、次がピックアップに対して平行方向にピッキングしたものです。
こうして比較してみると、垂直方向のピッキングでの波形に比べて水平方向のピッキングの波形は複雑で、倍音が多いことがわかります。上で一つの山だったものが二つの山に見える部分は元の波形に対する2倍の周波数成分が増えていることの証明でもあります。
なお、波形を出来る限りちゃんと表示させようと考えたため、レコーディングしたサウンドは「ノーマライズ」という処理がされています。実際には、ピックアップに対して平行方向にピッキングした方のサウンドはピックアップに対して垂直方向にピッキングしたサウンドに比べて、3-4デシベル程レベルが低い(85%から90%くらいの音量になる)ことを補足しておきます(ページ上のコントローラにVolumeを設定しておきました)。
以下の二つは、ベースらしいEQ処理を「TINY WAVE EDITOR」にて行った後のピックアップに対して垂直方向にピッキングしたものと、ピックアップに対して平行方向にピッキングしたものです。
このような「偶数倍音が強調される」というのは逆に言うと電磁ピックアップの特徴でもあるわけですが、以上のようなことを理解して実践するとピッキングの角度によって基音と偶数倍音とのバランスを変化させることが可能になります。
これも音域によりイメージが変わりますが「重い音」と「軽い音(明るい音)」を使い分けることが可能になるのですね。
さて、ピック弾きの場合はダウン、アップのピッキングを多用するので平行方向への振動成分が多いのが普通だし現実的と思われますので、どうしても(垂直方向への)角度の深いときのフィンガーピッキングに比べて軽い音になってしまいます。
ですから、この場合はアンプのBASSコントロールをブーストする(かつTREBLEをカットする?場合もありますが…)のが普通だと思われます。
なお、ピッキング位置や、ピックアップの位置による音色の変化については「デッドポイント&ハーモニクス」を参考に、ご自分でもその傾向を観察して音色コントロールの方法論を確立してみてください。
その上で、アンプのセッティングやらエフェクターなどを使用するわけです。音色を変化させるパラメータのなんと多いことでしょう。
結局、音色というのは同じ演奏者でもダイナミックに変化し続けるのです。楽器の持つ色々な音を引き出してやりましょう。